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大難戦(2)

社員全員に指示をだした後、私は次の段取りをしたり不測の事態に備えたりした。モルタル補修の段取りや、もし間違ってサッシを使えなくしたら代わりがすぐにあるのか、サッシ屋にうもれている在庫を確認したりしていた。
そして足場の組み方も考え終わり、頭の準備は出来たのだが、まだ足場丸太が来ない。どうせ今日中にシステムバスが組み終わらないのは百も承知だが、展開によっては一日の遅れも出さずにいける可能性が残っているので、ついイライラして電話してしまう。「いまどこや?」。この間は1分が1時間にも感じられた。

12:25 ようやく足場丸太が到着して組み始めると、すぐにジュンも到着。一緒に組むのは初めてだが、こういうのは私よりジュンの方が上手い。

13:00 私はてっきりサッシの耳をモルタルで巻いていると思っていたのだが、ジュンが確認すると内付けでコーキングを切れば取れるという。ジュンとレイが二人でコーキングの撤去作業に入るのだがなかなか進まない。

サッシが落ちないようにしばったロープを持ちながら待つのだが、この間がまた長い。しかし、こんな時に急いでもろくなことはないので、「ゆっくりやれよ、あわてるなよ」と何度も声をかけた。「ゆっくりやれよ」と言いながら、おそらく私が一番ジリジリしていただろう。早くおさめて安心したかった。

13:20 コーキングの撤去が終わり、いよいよサッシをはずしにかかる。ジュンとレイが足場で構え、私ときっしゃんがロープを持っている。岡さん、朝倉さん、村山さん(メーカー職人)が中から出窓本体を持つ。

村山  「無茶苦茶重い!」
ジュン 「こんなんもたれへん!」

下まで下ろすのはあきらめて、何とか足場までおろすことにした。私はジュンとレイにスライダーまで降りて待つように言うが、そのポジションではやりにくいらしく、足場で一緒に持とうとする。しかし、危険だ。それでは「GO」が出せない。

私  (重たいから、はずれたひょうしにガクンといったら危ないな・・・)
村山 「ガクンといったら一緒に行ってまうで」
ジュン「いくでしょうね」
そのやりとりで、意思が決まった。
私  「二人とも下まで降りとけ」
ジュン「でも持てないでしょう」降りようとしない。
私  「絶対に落とさんと持っとくから降りろ、早く」
とせきたてて降ろす。万一、二人にケガをさせたら奥さんに合わせる顔がない。この場合、一番大事なのは社員の安全だ。結局、中から7人がかりでささえ、何とか足場まで降ろす。しかし、サッシが大きく開口部分とかぶっており、システムバスの架台を入れるには邪魔なようだ。

朝倉 「これ、水平ぐらいにせんと入らへんからアカンのとちゃうか。サッシと同じぐらい重たいで」

みんな言葉を無くした。たしかに1620(1.5坪)タイプでセパレートされていないのでかなり大きい。

ジュン「これだけおったらいけるでしょう」
私  「よし、やってみよう」

架台をロープでしばり、上げ始める。「せえのーっ、せえのーっ」きっしゃんが声を掛け、みんな力を合わせる。何とか上まできたが、やはりサッシが邪魔でどうしても引き込めない。

私  「しゃあない、もう一回降ろして、しんどくてもサッシを下まで降ろそう」
ジュン「下まで行かんでも、もう一つ下の段の足場でもいけますよ」
私  「そうやな、その方がええな」

重い、動かない。しばり方を変えて、大勢でロープを引っ張れるようにした。

ジュン「さあ、いきましょうか」
私  「ちょっと待て、下に誰もおらへんか、きっしゃん行って人が近づかんように見といてくれ」

全員、二階にいるので下の様子がわからない。レイが下のほうを覗きこんだ。
レイ 「犬がいます」
私  「そうか、丁重に下がっていただいてくれ」

降ろし始めるが、これもひと仕事だ。「そっちを緩めろ」「ちょっと待って」など、怒号が飛び交う。ようやく下の段に降ろして、足場にくくりつける。再び、架台をしばり、上げ始める。「せえのーっ、せえのーっ」きっしゃんの声が響く。上から5人、スライダーから2人で息を合わせる。今度は架台を無事に取り込むことが出来た。みんな軽い放心状態だ。

私  「よし、次はサッシや!もう一回あげるぞ」

まだ、糸を切ってはいけない。ジュンとレイが足場に降りてしばり始めるが、今度はそのままはめないといけないので同じしばり方ではダメだ。
私  「最初のくくり方にせんと、はめこまれへんからアカンぞー」
二人はやり直すが、きっしゃんが手直しした。
きっしゃん
「それやったら、引っ張られへんで」
きっしゃんは日頃は寡黙だが、口を開くとポイントをついたことを言う。私は気付かずに見ていた。
私  「くくるのも難しいな」
レイ 「難しいですね」

三度(みたび)、きっしゃんの掛け声で始まる。「せえのーっ、せえのーっ」今度はなかなか上がらない。気が付けばメーカー組がほっとしたのか後ろで見ていた。3人はすぐに気付き、7人ががりになって上がるようになった。サッシは無事にビス止めされ、ようやく落ち着いた。もう15:42になっていた。

それからコーキングと防水テープを取りに行き、補修も終わり、足場をばらすことが出来た。結果的に工程に一日の遅れを生じさせたが、一時は最悪のことまで覚悟をしていたので、これで済んだのは不幸中の幸いだった。
みんな、よく頑張ってくれた。かえすがえすも私は良い社員に恵まれて助かっている。私も4年前までは一人でやっていた。浴室の解体など一人でしんどい仕事は、父親に手伝ってもらっていた。もし、これがその頃に起こっていれば、こうは迅速に対応できなかっただろう。帰りの車では、自然と手を合わせるような気持ちだった。みんなよく頑張ったが、あえて言うならばMVPはジュンだった。

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