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大難戦(1)
かつて経験の無い非常に苦しい戦いから一夜明けた。現場単位で言えばもっと苦しい現場はあったが、一日単位で言うと昨日は今までで一番苦しかった。
5:30 普段通り目覚めるが、軽い頭痛を感じる。私は5年前に工事の騒音で右の耳を難聴と耳鳴りに追いやっている。その影響で時々気分が悪い。この日の第一印象は「いややな」。
8:30 きっしゃんにこの日予定されているシステムバスの現場の諸注意を与えて、送り出す。少し立ち会うだけの予定だ。
8:50 以前にも書いたと思うが、私は幼稚園の父兄会で役員をやっている。この日はクリスマス会で私はサンタクロースに変身し、子供たちにプレゼントを配る役目をおおせつかっていた。予定通り幼稚園に向かった。
9:31 サンタさんと化した私はコーヒーをよばれ一服していた。この時、アクシデントの第一報が入った。メーカーの営業担当からだ。二階でシステムバスを組む予定だが、階段が狭く搬入できないと言う。
私 「現場確認してもらった時、いけるってゆうたやろ。ショールームでも廻り階段をあげて組めるやつって頼んでたのに」
岡(メーカー営業担当)
「何とかいけると思ったんですけど、現場から職人が無理やって言ってるんです」
私 「何か方法は無いのか?」
岡 「モノを替えないとダメらしいです」
私 「わかった。俺はもうすぐ連絡とれんようになる。お昼前にはいけると思うから、対応の方法を考えておいてくれへんか?」
ここのお施主様は奥様が足が悪く、お風呂に入れてあげるのも二人がかりだそうだ。そのために広いお風呂にリフォームする。だから銭湯などにいくことは出来ない。間違っても、発注をかけ直していたずらに工期を延ばすことなど出来ない。ご主人は「信用しております」と言って、仕事の話などはほとんどせず、世間話だけでまかせてくれた。この現場だけはしくじることが許されない。私の男がかかっている。
9:43 きっしゃんから第二報が入る。
きっしゃん
「大変なことになってるんです」
私 「うん、聞いた。階段のそで壁をとってもあかんのか?」
きっしゃん
「無理らしいです」
私 「営業担当がそっちへ向かってもう一回考える。きっしゃんは離れんと現場におってくれ」
直後にお呼びがかかり、おじいさんの声色でしばらくサンタさんに没頭する。私はよほど頭が器用なのか、現場のことはすっかり忘れて楽しんだ。
10:45 会社に帰り、すぐに着替え現場に向かう。
11:00 現場につくやいなや、メーカーの職人に確認する。
私 「何か方法は無いのか?」
朝倉(メーカー施工チームの親方)
「お風呂のサッシをはずしたらいけます」
すぐに二階にかけあがり、サッシの様子を見る。一瞬で腹が決まった。
私 「よし、これをはずす。はずしたらいけるねんな」
朝倉「スペースはいけますけど、もって上がれるのかどうか」
私が本気なのかと、とまどっている。ここは敷地も高くなっていて、二階とはいえ実質は2.5階になっている。もちろん足場もない。
私 「入るんやったら何とかする。すぐに段取りして全員集合させる。」
私はすぐにきっしゃんを倉庫に走らせ、ダンプで足場の用意を持ってくるよう指示を出し、レイを他の現場から引き抜いて合流させた。二人には「昼飯は悪いけど遅らせてくれ」と伝え、ジュンは12:00からお客様への引渡し、その後カレンダー配りの予定だったが、「いまのうちに飯食うといて、終わったらすぐにこっちへ来てくれ」と、戦闘配置が終わった。
しかし、敵はなかなか強力で、ここから予想以上の苦戦をしいられた。お風呂のサッシは大きな出窓でしかも鉄製だったのだ。
「出窓はアルミでも重いのに・・・」私は何気なくつぶやいたが、このつぶやきは後の苦戦を暗示していた。
(2)に続く