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この章は、関心の無い方は遠慮なくとばしていただいていいかと思います(微笑)。私はお施主様に対して、すぐに時代遅れになる家、型落ちになる家を建てたくないので、歴史から将来の住宅のあるべき姿を考えます。前章までの住宅三大性能について、住宅建築の時代の流れをまとめてみます。
耐震強度
耐震強度について意識が高まったのは、1924年の市街地建築物法改正からです。古い話ですね、大正時代です。この時に、すじかいの設置が義務化されました。1950年には、現在の建築基準法が制定され、壁量が規定されました。この後、大地震による被害が起こるたびに、その内容が強化されてきました。
特に大切なポイントだけお話しします。1978年の宮城県沖地震の被害を受けて、1981(昭和56)年6月には壁量が再強化されました。この年の5月以前の建築は、実に97%の住宅において耐震強度が不足しています。現在のご自宅が該当する場合、耐震補強を前提とした耐震診断を受けることをおすすめします。
次に重要なのは、1995年の阪神・淡路大震災の被害を受けて、2000(平成12)年に施行された建設省告示です。このときに、壁は量だけでなくバランスを確認することと、柱の接合方法を強化することが決められました。壁量があっても、たてよこのバランスが悪いために倒壊した建物や、柱が抜けることによって倒壊した建物が非常に多かったからです。
耐震強度を追い求める法律の改正は、約80年をかけてここで一旦の決着をみています。耐震強度については、その技術や考え方について、ほぼやりつくした感じがあるという意味です。その後、現在まで18年間もの間、耐震強度についてのルールは変わっていません。今後も見直しの予定はなさそうです。
ただ、もし将来、ルール変更があるとすれば、それは耐震強度をより高くするということでなく制震工法が義務化される可能性があると私は考えています。いま、制震を取り入れた家を建てていると、構造面では時代遅れになることはないだろうと思います。
断熱性能
こちらは耐震強度と比較して、かなり後発です。耐震強度が9合目まで登っているとすれば、気密・断熱性能は5合目といったところでしょうか。ですから、これからどんどんルールが変わっていきます。
気密・断熱性能が言われだしたのは、1971年のオイルショック以降です。それまでは、ほとんど注目されませんでした。1980年に旧省エネルギー基準、1992年に新省エネルギー基準、1999年に次世代省エネルギー基準が制定されます。ところが、次世代省エネルギー規準は、その後2009年までに3度も改正されたほど重要視されている基準ですが、ただの努力目標であって、義務化はされていません。税制や補助金などで標準化をうながしているだけなのです。
ですから、熱心に取り組んでいる会社もあれば、そうでない会社もあるというのが現実です。したがって、耐震強度では、現在では住宅会社間で驚くほどの差は見られないのですが、気密・断熱性能に関しては、10点と100点ぐらいの差が生まれます。
しかし、2012年には低炭素建築物認定制度が、2013年には改正省エネルギー基準が施行され、住宅の高気密・高断熱化、省エネルギー化の方向がはっきりと示されました。その改正省エネルギー基準は、2020年には義務化されます。断熱性能が義務化されるのは、初めてのことです。また、2030年にはゼロエネルギー住宅を義務化することを目標としています。
つまり、現在、普通に建てることのできる住宅が、2020年以降には「断熱性能(省エネ性能)が不足している住宅」と判断されて、建築できなくなることがはっきりしているということです。そして2030年には「昔の家だから・・・」などと言われる日がくるかもしれません。そんなに遠い日のことではありません。
ですから、いま建てるべき家は、やはりBELS☆☆☆☆☆レベルの家でなければならないと思います。2020年新基準ではすぐに型落ちが見えています。
シックハウス・電磁波
ある意味では最も大切なシックハウス対策ですが、実は一番遅れています。耐震強度が9合目、気密・断熱性能が5合目であれば、シックハウス対策は1合目、つまり本当に登り始めたばかりです。ほとんどの住宅会社はまだ眠っています。シックハウスのメカニズムすら理解されていないような印象があります。
シックハウス症候群は、1960年代に建築された住宅からめだって発生するようになりました。それ以前の日本の家屋からは、シックハウスというものはありませんでした。高度経済成長期に、日本の家づくりが一変してしまったからです。シックハウスは結露の知識の無い断熱工事から発生した大量のカビ・ダニと、それまで使用されていなかった大量の有毒化学物質が原因です。年末の大掃除などの風習がさびれたことも一因ですし、換気など、生活習慣が変わったことも問題です。
シックハウスであるアレルギーのアレルゲンの60%はハウスダストだと考えられています。ハウスダストとはダニの屍骸や糞尿です。
ゴミ1gあたりのダニの数は、1965(昭和40)年ぐらいまでは、100個程度と非常に少なかったのです。それが、1980年代になると1500個になり、驚くべき勢いで増えています。このダニの増加がアレルギー、アトピー性皮膚炎、ぜん息の最大の原因なのです。意外に思われるかもしれませんが、築40年以上の農家などでは、ほとんどダニは発見されません。すきま風だらけの家では、結露もしないからです。
また「新建材」と称した塩化ビニールでお化粧をした造作材が使用されたり、有機溶剤が蒸発する接着剤を使った建材が使用されたり、人体にも非常に有害なシロアリの薬をまいたりするようになりました。ホルムアルデヒドを中心としたVOCたっぷりの住宅が大量生産されてきました。当時、国の住宅建設政策は、増やすこと、供給することが全てだったのです。効率化に走り続けた時代です。それが必要な時代だったのです。
そしてそのような家づくりが進むと、住宅による健康被害が訴えられるようになり、「化学物質過敏症」という病気が認定されるようになりました。ちなみに、シックハウスと言うとこの化学物質過敏症だけがイメージされることが多いようです。
このような背景からシックハウスが社会問題化し、ようやく2000年、学識経験者、関連業界、関係省庁(建設省・通産省・厚生省・林野省)からなる「室内空気対策研究会」が発足しました。そして2001年には、住宅性能表示制度に「室内空気中の化学物質の濃度測定」の項目が追加されましたが、しかし、現行法では濃度測定の義務はなく、一部の真面目な会社が行っているだけです。あまり浸透していません。
2003年には、建築基準法が改正され、クロルピリホス(シロアリの薬の一成分)の使用禁止、ホルムアルデヒドの使用制限、二十四時間換気設備の設置義務化が決まりました。そして、13の化学物質について濃度指針値が定められました。この政策は一定の成果が上がり、これ以降、重度の化学物質過敏症患者は少なくなりました。
その改正では、ホルムアルデヒドの放出量の少ない建材をF☆☆☆☆と評価し、使用面積の義務付けをしているのですが、それでもホルムアルデヒドの指針値をこえてしまいます。前章にも書きましたが、議員宿舎で明らかになったように、その指針値を守っていてもシックハウスになってしまう、などの矛盾や問題が山積しています。
ですから、「いまの基準ではダメだ」ということで、新しい規制が議論されています。どんな形で決着がつくかは定かではありませんが、近い将来大きなルール改正があることは国の既定路線です。私は抗酸化を義務化すべきだと思いますが、その前に化学物質の扱いも努力目標のままなので、まだ何十年という時間が必要だと思います。
現在、濃度指針値が定められている化学物質は13物質ですが、新築住宅では100種類以上の化学物質が検出されます。国土交通省では、それなら個々の基準値ではなく総量規制にしようと、T(トータル)VOCを軸に話が進んでいるようです。しかし、これも無垢の桧や杉などからもアルファーピネンなどのVOCが放出されるため、すんなり決まることはなさそうです。
「バウビオロギー(Baubiologie)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ドイツ語の造語です。Bauは建築や空間、bioは生命、logieは理論を意味し、日本語では建築生物学・生態学といいます。人間本性と気候風土を科学し、健康や環境に配慮した人間味あふれた住まいづくりを目指す学問です。
ヨーロッパでは、戦後復興の効率優先でシックハウスを生む住宅づくりに批判が高まり、1960年代から西ドイツにおいて自然を考慮した住まいとその工法について議論が始まりました。1968年に「健康な住まいづくり研究会」が生まれ、1973年には最初の「バウビオロギー協会」が発足しました。バウビオロギーの考え方は、1970年代に、スイス・オーストリア・オランダ、1980年代に、イタリア・アメリカ・イギリス・ニュージーランド・オーストラリアなどに広まりました。
日本ではようやく2003年に「日本バウビオロギー協会」が設立されましたが、残念ながら、その考え方は広まっているとは言い難いのが現状です。しかし、来るべきルール改正に大きな影響を与える可能性はあると思います。
そのバウビオロギーの考え方を、できるだけ簡単にまとめると、
- 土地の電子環境に着目する。自然の磁場をゆがめない、人工の電磁場を広げない
- 吸放湿性のある自然素材を使用し、VOCを極力減らす
- 太陽エネルギーを有効利用し、高断熱の促進(地球環境に負荷をかけない)
- マイナスイオン優位環境を維持し、空気のきれいな部屋をつくる
この4点につきると思います。特に地球環境に負荷をかけないという意味で、イギリスのZEHやスイスのミネルギーなど、日本では想像もつかないほどの高断熱になっています。
土地の電子環境に着目するというところを、簡単に説明します。農作物が良く育つ、いわゆる「地味肥沃な土地」とその反対の「痩せた土地」があります。もちろん、中間の土地もあります。ここまでは、みなさんよくご存知ですが、実は統計的に肥えた土地は人体にもよく、痩せた土地では体調の不良をうったえる方が多くなるのです。
戦時中、食料難の事情から軍の命令で、物理学者楢崎皐月博士が全国12000ヶ所の土地を調べました。その結果、肥えた土地と痩せた土地の違いは、電子にあることがわかってきました。電子の多い土地が肥えていて、電子の少ない土地が痩せているのです。昔から、農家では「雷の多い年は豊作だ」というそうです。雷は土地に電子をたくわえる最高のメカニズムなのです。
現在では、科学的に土地の電子環境をよくする施工方法が確立し、特許も取得されています。『いやしろの住まい』と言います。いやしろの住まいでは、植物も元気よく育ちますが、何より人が健康になります。バウビオロギーの最先端です。
さて、そのバウビオロギーですが、理論を発展させた西ドイツがお手本にしていたのが、実は日本の古民家に見られる伝統的和風建築です。人と環境に最高にやさしい建築だそうです。現在、ことバウビオロギーに関する限り、最も後進国が日本なので、実に皮肉な感じがします。
気密・断熱性能は住宅会社によって、10点と100点ぐらいの差がつくと書きましたが、シックハウス対策になりますとその比ではありません。あくまでも私見で恐縮ですが、マイナス100点とプラス200点ぐらいの差が出るのではないでしょうか。決して大げさな話ではありません。シックハウスにならないだけなら100点、積極的に健康を増進する家になって200点だと考えています。
耐震強度は住宅会社による差がほとんどありません、ぜいぜい二倍までです。それは、問題が社会に顕在化してから時間が経っているからです。何度も法律が改正され基準が高くなってきているからです。つまり、昔OKだった建物が現行法では違法になっていることを意味します。これを「既存不適格建造物」と言います。2000年5月以前の建物は可能性大です。
これから、気密・断熱性能もシックハウス対策も同じことがおこります。現在の基準ではOKな住宅であっても将来は欠陥住宅のような印象になっている可能性は充分にあります。昔は断熱材なんて入って無くても普通でしたが、いま、断熱材が入ってなかったら欠陥住宅と言われても反論できません。これからはそのハードルが上がります。気密・断熱性能はまだ5合目ですから、これからどんどん変わります。
ましてシックハウス対策は始まったばかりです。現在の基準で問題の無い住宅でも、将来は必ず問題有りになります。まして現在の基準も満たしていない(計測していない)住宅なんて問題外になる時代がきます。これから大きな波がやってきます。
そしてシックハウスはそれだけではありません。電磁波の問題があります。電磁波による健康被害は深刻な問題であり、日本ではまだ病名として認められていませんが、スウェーデンやデンマークでは1995年に「電磁波過敏症」が病気と認知されて公的保険の対象になっています。
日本では産業界の思惑もあり、電磁波対策はなかなかことが前に進みません。鉄塔の高圧線など、ハードルの高い問題が多いからです。しかし、いつか必ず大きく問題にされ、法律で規制される時がきます。
本当に先進的に「いい家」を建てようと思ったら、電磁波対策まで考えた家づくりをしなければなりません。抗酸化住宅、電磁波対策、ここまで考えてはじめて、いい家になると思います。「時代遅れにならない家」と言えると思います。
みなさんには、大局観を持って家づくりに取り組んでいる住宅会社を選んでいただきたいと思うのです。ご自身とご家族のために、住宅設備や機能などばかりでなく、住宅の本質的性能に真正面から取り組んでいる会社を選んでいただきたいと切に願います。
上記は、大吉建設が無用配布しています「幸せな家づくりのために読む本」より抜粋しました。 「幸せな家づくりのために読む本」送付ご希望の方は、お問い合わせ・資料請求よりお申込みいただけます。 |